PFAS規制で変わる泡消火設備の現場と未来とは
1. 泡消火設備に今、何が起きているのか?
近年、泡消火設備に関する大きな変化が、業界内外で注目されています。特に焦点となっているのは、泡消火薬剤に含まれる「PFAS(有機フッ素化合物)」の環境負荷と、それに伴う規制の強化です。
PFASは、水や油をはじく特性があり、泡消火薬剤として優れた性能を発揮することから、これまで広く使用されてきました。とくに「水成膜(AFFF)」と呼ばれる泡は、火災の表面を素早く覆い、酸素を遮断して消火するため、多くの施設で導入されてきました。
しかし現在、このPFASが環境や人体に長期的な悪影響を及ぼすことが明らかになりつつあり、世界的に使用制限や輸出規制が進んでいます。その影響で、日本国内でも泡消火薬剤の入手が困難になり、既存の設備を維持・運用することが難しくなりつつあるのです。
まだ一般には広く知られていないこの動き。
しかし、消防設備に関わる方々にとっては、今後の対応方針を見誤ると、コストや運用面で大きな影響を受ける可能性がある問題です。
この記事では、この泡消火設備に関する環境規制の背景や、現在起きている課題、そして今後の動向について分かりやすく整理し、注意すべきポイントをお伝えしていきます。
2. 背景:PFAS規制と世界的な環境配慮の流れ
PFAS(ピーファス)は、「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれるほど、自然界で分解されにくく、長期間残留する性質を持つ有機フッ素化合物です。このPFASは、防水性や耐熱性、化学安定性に優れており、泡消火薬剤においては火災時の油分に対応しやすく、迅速な消火性能を発揮するため長年使用されてきました。
しかしその一方で、環境や人体に与える悪影響が世界的に問題視されるようになりました。飲料水への混入、土壌や地下水の汚染、生物への蓄積などが報告され、特に欧米を中心にPFAS規制が急加速。泡消火薬剤の製造・輸出に厳しい制限がかけられるようになっています。この影響は、すでに日本国内にも直撃しています。
これまで泡消火設備で一般的に使用されていた水成膜型薬剤(AFFF)は、PFASを含むものが主流でした。しかし、海外からの薬剤供給はすでにストップしており、国内メーカーも次々と生産を終了。現在では“調達そのものがほぼ不可能な状態”となっています。
つまり、今まで当たり前のように点検・補充に使っていた泡消火薬剤が、すでに手に入らない状況が現場で起きているのです。
こうした背景を受けて、泡消火設備に関わる事業者や管理者には、これまで通りの運用がもはや成立しないという事実を受け入れ、代替薬剤やシステム変更を視野に入れた検討が求められ始めています。
3. 現場の課題:薬剤の補充困難と代替薬剤の問題点
PFASを含む泡消火薬剤がすでに入手困難となった今、現場ではさまざまな問題が表面化しています。特に深刻なのが、点検時や本番稼働後に必要となる薬剤の補充ができないという現実です。
泡消火設備は、定期点検の際に実際に泡を放出し、正常に機能するかを確認することが求められています。これは法令に基づいた重要なプロセスですが、放出すれば当然、薬剤の補充が必要になります。
しかし現在、その補充用薬剤が手に入らないため、「点検ができない」または「点検したら復旧できない」という、現場にとって非常にリスクの高い状況になっています。
では、代替薬剤を使えばいいのでは?という話になりますが、これも一筋縄ではいきません。
現在、主な代替薬剤として検討されているのは「合成界面活性剤」や「たんぱく系泡消火薬剤」などですが、これらは従来の水成膜型薬剤と比べて、発泡倍率が低い、つまり“同じ効果を得るためにはより多くの薬剤と水が必要*になるという課題があります。
たとえば、従来の薬剤であれば1リットルで済んだところが、代替薬剤では2倍以上の量が必要になるケースもあります。そうなると、もととなる消火用水の容量も増やさなければならず、結果として、地下タンクや配管などの設備自体を大規模に改修する必要が出てくるのです。
これは、特にビルや商業施設、地下駐車場などで設置されている既存設備にとって、非常に現実的ではない話です。多くの現場では、「薬剤がないから点検できないが、代替薬剤に切り替えるには設備の総入れ替えが必要」というジレンマに直面しています。
4. 業界の対応:メーカーの実験や消防との協議
泡消火薬剤の入手困難という課題に直面し、業界では代替薬剤の導入に向けた模索が始まっています。特に薬剤メーカーは、PFASを含まない新しい泡消火薬剤の開発・実験を進めており、現在はその性能確認の初期段階にあります。実際に、地下駐車場などの火災を想定した試験では、新たな薬剤を使って火災発生時に泡を展開し、隣接車両への延焼を防げたという結果も報告されています。
これはあくまで一例であり、今後さらなる実証が必要な段階です。
また、こうした実験データをもとに、従来の水成膜薬剤と比較して「どの程度の性能があれば実用に耐えうるのか」を判断する必要がありますが、消防当局との明確な合意や基準策定にはまだ至っていません。
業界側からは、「新しい薬剤は性能が異なるため、従来と同じ基準では現実的でない」との声も上がっており、現場での実用化に向けた調整はこれから本格化する見込みです。
つまり今は、代替薬剤が“使えるかどうか”を模索している初期フェーズ。
これから先、基準の緩和や柔軟な運用ルールが生まれる可能性も含めて、業界全体で注視すべき段階にあると言えるでしょう。
現在のところ、泡消火設備に関する法令上の明確な変更は行われていません。従来の水成膜型薬剤を使用した設備がすぐに使用禁止になるわけではなく、法的には引き続き設置・運用が可能な状態です。
しかしながら、実際には薬剤の製造・供給が終了しており、維持・更新が困難な現場が増えているのが実情です。
このように、制度としては許可されていても、運用上は限界を迎えている設備が少なくないのです。
今後、消防庁や関係省庁は、こうした実態を踏まえながら、設備の更新指針や代替薬剤に関する運用基準の策定を検討していくと見られます。
特に、PFASを含む薬剤の使用継続が、国際的な環境基準と乖離するリスクがあるため、環境省や厚生労働省など、他の行政機関とも連携した規制強化の動きが加速する可能性もあります。
さらに、今後の消防設備に関する制度設計では、環境対応やサステナビリティの観点も重要な要素になるでしょう。防災と環境保全の両立が求められる中で、従来の枠組みを見直すような動きが生まれる可能性も視野に入れておく必要があります。
つまり、まだ具体的な法令改正はなくても、制度や基準が変わる“予兆”は確実に現れてきている。
今は、そうした流れを正確に把握し、社内や顧客への情報共有・方針検討を始めておくタイミングと言えるでしょう。
九州防災工業では、こうした環境対応や業界動向についても常に最新情報を収集し、お客様に最適な提案ができるよう備えています。
泡消火設備の維持管理に不安を感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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